| 朝倉昭さんとの出会い |
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| 手紙 |
| 呉服屋になって、しかし呉服屋という職業に燃焼できず、趣味の音楽に没頭していた頃、オーディオ雑誌の記事で、イギリスのオーディオ研究家がトーン・アームに「グレース・G−707」を使用している写真が眼に留まりました。当時、日本のオーディオ・ジャーナリズムでは、ナンデモカンデモ、重量級が評価されていました。トーン・アームも然りで、シッカリとした重いトー・アームが人気でした。ところが、「グレース・G−707」は超軽量なのです。私は、日本人が評価しない超軽量のトーン・アームを、なぜイギリス人が使用しているのかに興味を持ち、思い切って「品川無線株式会社」に手紙を書き送りました。「グレース・G−707」について、購入可能かどうかを含めて、教えていただこうと。 すると、思いもかけず、当時、「品川無線株式会社」の創業者であり、社長であられた朝倉昭さんご本人から、直筆のお手紙を、それも長文のご返事を頂戴したのです。沢山の製品カタログを同封して。驚きました。問い合わせたトーン・アームについてのご返事は勿論、「グレース」の製品が、世界各国で、業務用、民生用として輸出され、使用されていること、かつて神戸の民間放送局「ラジオ関西(現在のAM神戸)」が放送を開始した頃、局内で使用されていた放送機器の納入等で「ラジオ関西」に足しげく通われたこと、「ラジオ関西」が、私の自宅がある山陽電鉄月見山駅が最寄の駅なので懐かしい、ということとか。私は、日本のオーディオ業界の黎明期以来、とりわけ、トーン・アーム、フォノ・カートリッジのトップメーカーである「品川無線株式会社」の社長が、私ごとき一介のオーディオ・ファンに直々にお手紙を書かれたこと、またその文面に滲み出る自社製品への情熱、矜持に感動いたしました。 |
| 直販 |
| 私が、最初に「グレースF8L」のフォノ・カートリッジを購入したのも、その後、フォノ・カートリッジの「グレースF10C」、トーン・アームの「グレース・G−714」を購入したのも、オーディオ専門店でした。しかし、いつの頃からか「品川無線株式会社」は製品の販売を自社からの直販に切り替えられました。オーディオ専門店での販売では店頭在庫が長期に亘った場合、初期性能が劣化することがあるからです。「品川無線株式会社」に会員登録した消費者に直接販売する手法を採られ、私も、会員登録いたしました。 当時、弊店は、数年に亘って年に2回、東京のメーカーに仕入れに行っていました。娘と息子は、まだ小学校に行くか行かないかの年齢だったので、子供たちを連れて泊り掛けで東京に行ったのです。会場での仕入れに連れて行くだけでは可哀相なので、上野動物園とか、東京ディズニーランドに遊びに行きました。偶々、東京に出かける直前に「品川無線株式会社」に電話をすることがあって、朝倉昭社長に東京に行く機会がある、と申し上げると「どちらのホテルで宿泊されるのですか。是非、お会いしましょう」とおっしゃってくださって、わざわざホテルまで面会にお越しくださいました。写真ではお見かけしていたのですが、実際にお会いすると、とても上品な紳士でした。光栄、この上ありませんでした。 |
| 電話 |
| 1995年1月17日、阪神淡路大震災勃発。私のオーディオ・ルームの愛機たちも、無残に、床に落下していました。唯、不思議なことに、レコード・プレーヤーだけは無事でした。震災直後、1週間は電気が復旧しなくて、部屋中に散乱した落下物を片付けることも出来ず、オーディオ機器も落下したままで放置せざるを得ませんでした。1週間後、電気が復旧し、部屋の照明が灯るようになって、やっと片付ける元気が湧いてきました。無残にも床に落下した、アンプ、スピーカーなどを起こして接続し直しました。壊れていないだろうか、音は出るだろうか。さすがに、余震が続く中、レコードを再生するのは危険だ、と思ってCDを鳴らすことにしました。アンプのスイッチを入れ、CDプレーヤーの再生ボタンを押した、その瞬間、スピーカーから流れ出たリチャード・ストルツマンのクラリネットの妙なる調べ。生きていて良かった、とつくづく感じたのです。奇跡的にオーディオ機器は、何ひとつ壊れていませんでした。 震災後、何ヶ月か経って、少し落ち着きを取り戻した頃、「品川無線株式会社」から通販の案内を頂き、フォノ・カートリッジを注文しました。「品川無線株式会社」に確認の電話を入れると、電話口に出られた社員の方が「三木さん、しばらくお待ちください。社長に代わりますので」とおっしゃる間もなく、朝倉昭社長が電話口に出られて「三木さん、この度は大変なことでしたね。震災の被害はいかがでしたか」と尋ねてくださったのです。私は、被災地の状況は想像を絶する状態ではあるけれど、自宅も、店舗も倒壊を免れ、家族、社員、全員、無事であったことをお伝えしました。「ご無事で何よりです。どうか、これからも、がんばってくださいね」と励ましの言葉を頂きました。 |