2025年8月30日


  商店街

 松尾芭蕉は、自らが創始者であった蕉風俳諧の理念に「不易流行」を掲げました。「不易」とは「変わらないもの」、「流行」とは「変わるもの」であり、「変わらないもの」に固執することも、「変わるもの」に翻弄されることも、ともに斥(しりぞ)け、「不易」と「流行」の共立を理想としたのです。「変わるもの」と「変わらないもの」の共立が重要であることは、何も文芸に限ったことではありません。商店街も、また然りです。
 弊店が神戸元町商店街東入り口の現在地に店舗を構えたのは1955年でした。当時、右隣は「協和銀行」、左隣は「ラモード」という婦人服店で、神戸でも屈指の高級オートクチュールでした。しかし「ラモード」は2006年に閉店され、その店舗跡には、香港のファーストファッションの店、婦人靴、ミズノ、と入れ替わり、現在は、今や大流行(おおはやり)のガチャの店になりました。左隣の「協和銀行」は「協和埼玉銀行」「あさひ銀行」と統合を重ね、阪神淡路大震災後、神戸ファッションブランドの「JAVA」グループの旗艦店が建設され、テナントビルとして「ユニクロ」が出店した後、直近、「SKECHERS」になりました。
 弊店の両隣だけでも、それだけ店舗が入れ替わったわけですから、神戸元町商店街では、私が「丸太や」に入社した1973年以降、ドラッグストア、100均、買取屋、ゲームセンターなど従来なかった業種の出店も増え、「元町も変わりましたね」と往年のお客様に嘆かれたりもするのですが、「神戸レ雌ー」「本高砂屋」「亀井堂総本店」を始め、弊店を含めて沢山の老舗も健在です。変わる店、変わらない店が共存共栄して、神戸元町商店街は今も活況を呈しているのです。

2025年8月20日


  通史

 私は、子供の頃から歴史が好きで、と言っても絵本で源義経や豊臣秀吉の活躍に心を躍らせた、という程度ですが、小学校の社会の授業では、「ほっとけ(仏け)ほっとけ(仏け)538(ごみや)さん」とか「頼朝は1192(いちいち国)を支配する」とか年代を一生懸命憶えました。中学の日本史で教科書を丸暗記して先生に褒めていただいたり、高校の授業では「江戸時代の日本は大変文化が発展して、鴨川の五条橋の何番目の欄干から汲み上げた水が最高だ、と味わえたのです」というお話に感動し、長じて早稲田大学文学部日本史学科で日本史を勉強しました。
 これまでに私は、中央公論社刊「日本の歴史」、岩波書店刊「岩波講座 日本歴史」を通読しましたが、日本の歴史を通観して感じるのは、時代は変わる、しかし変わらないものがある、ということです。いつの時代も、時代はドンドン変わっていく、激変する。しかし変わらいものもまた厳然としてあるのです。変わるものは、何故変わるのか、変わらないものは、何故変わらないのか。変わるも、変わらないも、どちらも歴史の必然であるなら、変わるものは、変えねばならない。変わらないものは、変えてはならない。時代の変化の中で、何を変えねばならないのか、何を変えてはならないのか、それを知ることが歴史を学ぶことで最も大切だと思います。
 時代の変化の中で、変わるものを変えようとする、変わらないものを変えないようにする、私は、前者を「革新」、後者を「保守」と考えます。であるなら、「革新」も「保守」も、どちらも二つながら歴史が進歩するうえで、必要不可欠なのです。「革新」と「保守」、それは世上、考えられているように「対立」するものではなく「共立」しなければならないと考えます。

2025年8月10日


  アルフレッド・ヒチコック

 私は小学生の頃は少年野球、中学、高校は卓球部に所属していて、スポーツ大好きでした。高校の体育の授業も一生懸命だったので、授業中、先生が、「みんな大学の受験で体育は関係ない、と真面目に取り組まないけれど、三木君を見習いなさい」とおっしゃってくださって、ちょっと恥ずかしかった。唯に好きだったからです。そんな私なので、子どもの頃から、本はほとんど読んだことがありませんでした。中学の国語で、読書感想を書くことになって、当時、姿三四郎という柔道家が主人公のテレビドラマが人気だったので、夏目漱石の「三四郎」なら面白いだろう、と読んでみたら全然、ちがっていました。ところが高校2年生の時、心境の変化が起きて、それまで自分は外交的性格だと思っていたのが内向的だと気付いて本を読むようになりました。
 私の読書遍歴は間歇的で、熱心に読む時と全然読まない時が交互にあったのですが、推理小説だけは読んだことがありませんでした。もっぱら殺人がテーマなので臆病な私は唯々恐ろしいのです。そんな私なので、自宅のホームシアターで映画を見るようになってもサスペンス映画は見る気になれませんでした。ほとんどラブロマンスのドラマやミュージカルばかりを見ていましたが、往年の名画のDVDが格安で買えるようになり、アルフレッド・ヒチコックの作品が沢山販売されていたので購入しました。最初に見たのは「レベッカ」で殺人事件の犯人を探し出すようなストーリーでは全く無くて、誰もが生きている限り逃れられない不安がテーマの心理劇でした。それから「バルカン超特急」「汚名」「私は告白する」「疑惑の影」「白い恐怖」「見知らぬ客」と見続けてきました。私見ですがアルフレッド・ヒチコックへの最高の賛辞は「職人芸の極致」だと思います。
 直近、「ロープ」を見たのですが、冒頭、男性が絞殺されるシーンで始まり、最後まで実にシンドイ作品でした。優れた人間は劣った人間を殺す正当な権利を持っていると確信する犯人の凶行を、ジェームス・スチュアート演じる人物が最後に、思念することと実行することは別次元だ、と断罪して終わるのですが、見終わった後も、お腹(なか)にドーンと重い物が残りました。