上田

 かつて、大阪シンフォニカーで一緒に演奏していた、チェリストの成川昭代さんのご主人で、マンドリン奏者である川口雅行さんが主催しておられた、「清里マンドリン音楽祭」に、震災の三年後から、私たち家族も、毎年、参加させていただきました。楽器を持参して、合奏に参加したり、発表会で家族四人のカルテット(小遣減額始終相談!小遣いの減額を始終、相談しているファミリーカルテット!)で出演したり、会場で、「丸太やオリジナルコレクションコンサート」の販売をしたり、公私に渡って参加させていただきました。
 初めて、「清里マンドリン音楽祭」に参加した、一九九七年夏、震災後、全国各地で発表した、「丸太やオリジナルコレクションコンサート」を、長野県松本市のギャラリーで発表しました。清里に、商品を持参したので、足を伸ばして、松本でも発表することにしたのです。松本での販売会を夕方終えて、その足で、上田に向かいました。長野県上田市は、松本市から車で、ほぼ一時間の所にあります。なぜ、上田に向かったのか、というと、上田在住の織物作家、小山憲市さんを訪ねるためでした。
 小山憲市さんの名前を、初めて知ったのは、新潟県小千谷市の織物作家、樋口隆司さんからでした。その年の二月、樋口隆司さんの織個展を、弊店で開催した折、樋口隆司さんが、「上田の小山憲市さんが、良いものを織っておられます」、とおっしゃられたのです。樋口隆司さんが、折り紙をつけられる、小山憲市さんという方は、一体、どんな織物を創っておられるのだろう、と心惹かれました。後日、樋口隆司さんから、「全日本染織新人展」で、「大賞」、「奨励賞」、などを受賞された、小山憲市さんの作品の写真が送られてきました。
 丁度、その頃、発刊された、「家庭画報特選 きものサロン 97春号」に、弊店で開催する樋口隆司さんの織個展が紹介されましたが、偶然、同じ雑誌に、「信濃路・春の旅―信州の染めと織り」、という特集があり、小山憲市さんの作品が紹介されていたのです。ご本人の写真に電話番号も。私は、この奇遇に、深いご縁を感じて、すぐに、小山憲市さんに、電話を差し上げました。すると、小山憲市さんも、その前年に出版された、「家庭画報特選 きものサロン 96秋号」、に全国個性派呉服店、として紹介された、弊店の記事をご覧になっておられて、「こんな素敵な、呉服屋さんがあるのだ、と読ませていただきました」、とおっしゃられるのです。私は、是非一度、上田に、小山憲市さんを訪ねて、お伺いしたいとお話しました。「是非、お越しください。お待ちしています」。その半年後、初めて、上田を訪れたのです。