平凡

 当時、NHK教育テレビに、「真剣一〇代 しゃべり場」、という番組がありました。一〇代の若者が登場して、その時ごとのテーマで、まさに、真剣に討論するのです。娘も息子も、一〇代だったので、真剣に、番組を見ていました。この番組では、視聴者からも、、メールで、意見を出してもらって、その意見も、番組の中で、紹介されるのです。ある日のテーマは、「平凡な人生はいやだと思いませんか?」、でした。息子は、考えるところがあったのか、メールで、意見を書き送りました。すると、NHKから問い合わせがあって、もっと詳しく、意見を聞かせて下さい、とのことでした。息子が、再度、書き送ると、NHKから、「顔出し」、という視聴者が登場するコーナーに出演して、意見を述べて欲しい、と申し込まれたのです。
 息子は、なぜか、今も昔も、私には、何も話さないのに、家内には、色々話をするようで、NHKに出る、という一連の事態も、家内から聞かされました。「萌(娘)と弦(息子)が、ショッチュウ見ている、NHKの『真剣一〇代 しゃべり場』という番組で、平凡な人生はいやだ、という話になって、弦(ゆづる)が、『僕は、そうは思わない。平凡な人生でも、真面目にがんばっている生き方は、立派な人生だ』って、番組にメールを送ったら、『顔出し』というコーナーに出てください、という話になって、今度、NHKのディレクターさんが、弦(ゆづる)を取材に、店に来られるんだって」、と言うのです。
 東京から、ワザワザ、取材に来られた、NHKのディレクターさんの前で、息子は、呉服屋を継ぐことを決めたこと、なぜ、呉服屋を継ぐことに決めたのか、を話しました。私は、側で聞いていて、うれしかった。そんな風に、考えていたのだ。私が、知らないうちに、気が付かないうちに、自分の将来を、真剣に考えて、自分で決めたのだ。