交響楽部

 息子は、甲南大学経営学部に入学したのですが、在学中の四年の間、ついぞ、息子の口から、経営について、何を学んでいるのか、話するのを聞いたことがありません。私も、今、何を勉強しているのか、訊ねたことはありません。本人が、経営学部ではなく、「交響楽部に入った」、と言っているぐらいですから、大学の四年間、何を学んだのかは、およそ見当がつきます。
 私は、それは、それで、良い、と思っています。だから、放っていた。経営学部で、何を学んだのか、は知りませんが、交響楽部では、きっと、色々なことを学んだはずです。私が、そうだったから。甲南大学文化会交響楽団に在籍した四年間、息子は、泣いたり、笑ったり、喜んだり、哀しんだり、怒ったり、謝ったり、色々、沢山、経験し、体得したことでしょう。それは、人生の縮図だ。これから、いよいよ、たった一人で、乗り出す、荒海のような、人生の縮図だ。貴重な、人生経験の模擬試験だ。
 「一人の人は、人ならず」、「人という字を良く見れば、人と人とのもたれあい」。まさに、人生は、自分ひとりで、生きて行けるものではありません。人に助けられ、人を助けて、人と共に、歩んでこそ、長い、長い、人生の道のりを、歩めるのです。一人の人間に出来ることは、たかが、知れている。しかし、沢山の人たちが、一緒に、力を合わせれば、とてつもなく、大きなことが、成し遂げられる。そのことを、理念でも、理屈でもなく、交響楽団の活動の中で、息子は、実感したことでしょう。