入団

 立花礼子さん、という素晴しいバイオリン奏者に、レッスンしていただけることになったのですが、息子は、レッスンの時以外は、全然、バイオリンを弾かない。練習しないのです。「練習しないで、バイオリンを教えていただくのは、先生に失礼だから、練習をしないのだったら、レッスンを止めなさい」、と家内は叱ったのですが、「だって、レッスンが楽しいんだもん」、と相変わらず、練習しないで、十年の間、バイオリンのレッスンを続けてきました。
 甲南大学経営学部に合格し、甲南大学に入学することになった時、私は、息子に、「甲南大学には、名門の学生オーケストラがあるのだよ」、と言ってやりました。息子は、中学、高校と、剣道部に所属していたのですが、大学で剣道を続ける気はなさそうだったので、そう言ってやったのですが、本人は、さして興味を持った様子も無く、「アカペラのコーラスでもやろうかな」、などと言っていました。ところが、入学式から帰ってくると、「交響楽団に入部した」、と言うのです。入学式の後、部室をのぞいたら、先輩がとても良い人で(昼食をオゴッテくださったそうで)、入る気になったのだそうです。
 甲南大学文化会交響楽団(正式名称)に入団した息子は、まるで、人が変わったように、別人の如く、バイオリンを練習するようになりました。部室に毛布を持ち込んで、泊り込みで練習することも、度々でした。まるで、失われた十年、を一気に取り戻さんが如く。「嗚呼、この十年、バイオリンの練習をしてこなかったのが、悔いても、悔いても、悔い足りない。」と嘆くのですが、さすがに、練習の甲斐あって、メキメキ、とは言えないまでも、ボツボツ、バイオリンが弾けるように なりました。  「後悔、先に立たず」、という諺がありますが、「思い立ったが、吉日」、という諺もあって、私の生活信条は、どちらかというと、後者で、日本の諺は、「今日出来ることは、明日に延ばすな」、だそうですが、アラブでは、「明日出来ることは、今日するな」、だそうで、私の共感は、どちらかというと、後者です。