タガメ

 私が、生まれ育った、そして、娘と息子が、生まれ育った、家は、古い、古い、木造家屋です。「ウチの家のお風呂は、木で出来ているんだ」というのが、子供たちの、何よりの自慢でした。そして、ささやかな庭、と。庭には、樹があり、草があり、土があり、そして、生き物がいる。息子は、まず、庭に、蠢(うごめ)いている、虫に、惹きつけられました。勿論、ダンゴ虫。蟻や、蝉や、我が家の庭で、生まれ、生きている、虫たち。小学校一年生の夏休みの理科研究に、庭に生息する昆虫を記録しました。
 そんな子供たちだから、NHKが放送していた、「生きもの地球紀行」という番組を、毎回、楽しんで見ていました。ある時、「水生昆虫の王者」と題して、タガメの生態が紹介されました。食い入るように見ていた息子は、それから、明けても暮れても、タガメ、タガメ、で、タガメ無くては、日も夜も暮れない、という有様です。いつか、タガメを見つけて、タガメを飼って、タガメを観察するのだ、と決心したようです。
 ところが、タガメは絶滅品種に近い状態なので、「タガメを見つけるのは、広いグラウンドで、たった一匹居る蟻を見つけるようなものです」、と、姫路市立水族園の館員さんが、タガメをみつけよう、などという、大それたことを、考えない方が賢い、とも解釈できるお話を聞かせて頂きました。ただし、「佐用町の辺りには生息しているようです」という貴重な情報も。佐用町に、タガメがいる!
 佐用町は、兵庫県の西の真ん中辺りで、岡山県との県境に近いところです。姉が、上郡に近い山奥に家を建てていて、春休みや、夏休みに、家族で泊り掛けで遊びに行っていました。姉に、佐用町にある、スピカホール、という素敵な木造のホールを教えてもらって、何度も、練習を兼ねて、遊びに行っていました。その辺りに、タガメがいる!ということを教えてもらって、それから、何回も、姉の家や、スピカホールに行く度に、タガメ探し。タガメや、タガメ、一体、あなたはどこにいるの。半日、タガメ探しをしても、見つかるものではありません。日の長い夏とはいえ、暗くなるので、もう帰ろう、と言うと、そのタンビ、息子は泣くのです。