共働き

 零細小売業者のご他聞に漏れず、弊店も、夫婦共働きです。生まれたばかりの子供を、揺りかごに入れて、カウンターの奥で寝かしていました。接客中に、突然、泣き出して、お客様が、飛び上がらんばかりに、ビックリされたこともありました。ハイハイが出来るようになると、目が離せなくなりました。歩行器に乗るようになると、知らない間に、店を抜け出して、弊店から一〇〇メートルも離れた、「ファミリア本店」まで、たどり着いていたこともありました。さらに、歩けるようになると、一挙に、行動半径が広くなって、突然、「お宅のお子様を保護しています」、と交番から電話がかかって、なぜ、ウチの子だ、と分かったかと言うと、弊店の当座預金通帳を手に握り締めていたからです。
 小学校に入るまでは、店の近くに在る、「みなと保育所」でお世話になりました。息子は、一風、変わった子供だったようで、ある時、家内が迎えに行くと、保育室に絵が展示されていた。息子が、どんな絵を描いたのかな、と探すと、画用紙全体が真っ黒。「どうして、真っ黒の絵を描いたの?」と聞いたら、「ライオンの絵を描いたけど、草の色が無いから、真っ暗な草原にいるライオンを描いた」、と答えたそうです。用意されていた絵の具の草色は、本物の草原を描くのには使えなかったそうなのです。息子を連れて帰ってきた家内から、暗闇のライオン、の話を聞いた私は、本物にこだわる息子の感性に、頼もしさを感じました。
 食べ物の好みも、一風、変わっていて、普通、子供が大好きな、プリン、とか、ゼリー、とか、アイスクリームが嫌いで、要するに、フニャフニャした食感が嫌いで、「皆さん、今日は、最後に、美味しいプリンが出ますから、しっかり食べてくださいね。」と保育所の先生が声を掛けてくださると、皆、プリンが食べたくて、一生懸命、給食を食べるのに、息子には、逆効果で、プリンを食べたくないから、いつまでも給食とニラメッコをしていたそうです。ところが、出汁雑魚(だしじゃこ)、とか、パセリ、とか、普通、子供が食べない食材を、ムシャムシャ食べる。「お母さん。誕生日のプレゼントに、これ買って」と指差したのが、パセリの束だった。