晩婚

 私は、晩婚でした。結婚したのは、三十二歳になってからでした。呉服屋の跡取り息子で、父親がいなくて、姉二人、妹一人。母親と同居。となると、一般常識では、結婚の条件が厳しい。本人に、生活力と魅力が無い、となると、尚更です。多分、一生、独身だな、と或る時期、腹を括りました。ところが、そんな私と、結婚しよう、という奇特な女性が現れた。現在の家内です。結婚して、何年後かに、家内は、問屋の担当者に、「よう結婚する人がいたな、と皆で噂してましてん」と暴露されたそうです。つい最近も、元町商店街のご近所の奥様に、「丸太やさんに嫁いでくる人、いはるんやろか、言うてたんですよ」と証言されたそうです。
 まあ、兎に角、私も、お蔭様で、結婚出来て、そして、1年後、子供が生まれました。生まれたばかりの娘を見た瞬間、私を捉えた感情は、喜び、ではなく、緊張、でした。この、イタイケナ、小さな命を、これから、守り育てていかねばならないのだ、という。三年後、二人目の子供を授かりました。息子が生まれた時は、娘の時のように緊張しませんでした。寝る子は育つ。寝ている間に、子供は育つ。お地蔵さんか何かの、大きな力に守られて。ところが、娘と違って、息子は、生後六ヶ月の時、風邪をひいたかな、と思う間もなく肺炎になって、突然、入院騒ぎになり、親をビックリさせました。そんなこともありましたが、さして病気をするでもなく、親を心配させることもなく、大きくなってくれました。