第二十七話
 今どきの百貨店は、まるで百貨の殿堂のようで、その豪華絢爛さに圧倒されますが、買い物をされるお客様にとっては、唯に買い物をするだけではない楽しみがあります。

モノ消費とコト消費
 小売業の分野で、いつの頃からか「モノ消費とコト消費」という話が出るようになりました。「これからの時代は、モノ消費ではなくコト消費だ」という風に。明らかに、「所有価値」から「使用価値」へ消費者の価値観が変わった今、「モノ消費」だけを提供しようとしても土台無理だ、ということは、私を含めて商業者に共通した認識でしょう。だからどうすれば良いのか、ということを考える上で「モノ消費とコト消費」という二分法は、それなりにヒントにはなる。
 最近、ある種のノスタルジーで口にされるコトバに「元ぶら」があります。元町商店街が華やかりし全盛時代、元町商店街に来て、ぶらぶらウインドウショッピングを楽しむことを称して「元ぶら」と呼んだそうです。「元ぶら」を楽しむために元町商店街に来られた方は、必ずしも「モノ消費(買い物)」に来られたわけではありません。元町商店街のハイカラ、ハイセンスなお店のウインドウをチラチラ眺めながら、ある種の高級感に身をゆだねることの快感を楽しまれたのでしょう。まさに「元ぶら」こそ「コト消費」であったと言えるのではないか。「元ぶら」というコトバが生きていた時代、元町商店街は間違いなく「コト消費」を提供できていた。「元ぶら(コト消費)」を楽しまれた方の中には、きっと元町商店街で「お買物(モノ消費)」をされた方もいらっしゃったことでしょう。