第十六話
 小学生の頃、友達の家に遊びに行ったら、お母さんが掃除機で部屋を掃除されているのを見て、とても羨ましかった。我が家は、箒と塵取りでしたから。

「三種の神器」と「3C」
 私の家は須磨で、店は元町でしたから、子供の頃、家と店との行き来は兵庫駅で山陽電車と国鉄に乗り換えました。幼心に、兵庫の駅前に人力車が停まっていた記憶が、おぼろげながらあるのですが、いつの頃からか街頭テレビが高い台の上に据えられて、その周りで沢山の人がテレビに見入っていたことも記憶に残っています。
 私が物心の付いた頃は丁度、「神武景気」「岩戸景気」で、戦争の惨禍から立ち上がり、日本経済が復興へ力強く歩み始めた時代でした。その牽引役は、「三種の神器」に例えられた白黒テレビ、冷蔵庫、洗濯機などの家電製品でした。「三種の神器」は当時の日本人にとって「豊かさ」の象徴だった。戦争ですべてを失った日本人が、「モノ」を持つことへの執着、物欲を満たすために、「三種の神器」をはじめとする諸々の「モノ」をひたすらに求めたのです。
 旺盛な購買力に支えられて日本経済は拡大し続けました。「3C」と呼ばれたカラーテレビ、クーラー、自動車を所有することが、日本人の憧れとなり、ステータスとなった。「モノ」が飛ぶように売れた時代だった。「モノ」を買い続けるために、ひたすら日本人は働きました。その奮闘努力によって、日本は、右肩上がりの高度成長を成し遂げたのです。ところが、その結果、どこのお宅にも「モノ」が溢れ、「モノ」余りの現象が起きたのです。