第四十九話
 何の為に生まれて、何の為に生きるのか、答えられないのはイヤです。

世の為、人の為
 私が「商鑑」を書き始めたのは極めて個人的な動機からでした。代々の家業である呉服屋にさしたる決意もなくなったのですが、なってみて呉服屋であることに誇りが持てなかった。自分の選んだ仕事が「世の為、人の為」になっていると自負できなかったのです。商売に「やりがい」がなかった。商売に「生きがい」を持てなかったのです。
 自分の選んだ仕事が、果たして「世の為、人の為」になっているのか、いないのか、そのことを根本から確かめたくて「商鑑」を書き始めました。書き続けて私の中で商売の社会的有用性が判然としたのです。地球上のすべての人間が幸福になれるように社会が進歩し続けているなら、商売が社会の進歩に果たす役割が大きいことに気付いたのです。
 社会の進歩は「生産の拡大」と「生産物の公平な分配」によって実現されると考えます。商売は「生産の拡大」と「生産物の公平な分配」に大いに貢献するのです。私たち商売人は「世の為、人の為」にしっかり働いているのです。