第五話 |
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1993年3月に開催した「心象 横山喜八郎 蝋で描いた作品展」には、訪問着、着尺、染帯などの着物と染額が出品され、沢山のお客様がご来場くださりお陰様で盛況でした。現代工芸美術作家協会の若い工芸家の方々も幾人かお越しになられましたが「横山先生は私たちが足元にも近寄れない方なのです」とおっしゃれたのが意外でした。初めてお会いした時からとても気さくで、偉そぶった態度など微塵もお見せにならなかったのです。会期中、会場にお越しくださっていた横山喜八郎さんに色々興味深いお話を聞かせ頂いたのですが、打ち解けたご様子に思い切って家内と私の積年の想い、着物や帯にバイオリンを描いて頂けないか、という願いをお話ししました。横山喜八郎さんは私の申し出に、一言「面白いテーマですね」とおっしゃいました。 その4か月後、7月に何の前触れもなく横山喜八郎さんから荷物が届きました。もしや、と期待に胸をふくらませて紐をほどくと中からバイオリンが描かれた染帯が2本、想像を遥かに超えた素晴しい出来栄えに家内も私も感動しました。丁度そこに居合わせたお客様に事の由来をお話しすると「そっちは貴方、こっちは私」と少し渋みの地色の帯を手に取られたのです。そのお客様は合唱団に所属される方で、そうか、着物が好きで音楽の好きな方は家内と同じようにバイオリンが染められた着物や帯を喜んでお求めになられるのだ。バイオリンやピアノが描かれた着物や帯を弊店のオリジナル商品として制作しよう。横山喜八郎さんにバイオリンの帯を創作してくださったことのお礼を申し上げようと電話をして、早速、私の想いをお伝えしました。「バイオリンやピアノのような洋楽器をモチーフにした染帯を制作して頂けないでしょうか」「やりましょう」と即答で快諾して頂きました。 |