買取屋 |
私は、50年程前に呉服屋になりましたが、その時点ですでに着物は日常着ではありませんでした。冠婚葬祭の式服として、かろうじて着用して頂けたのですが、それでも着物への憧れから、決して安価ではないにも係わらず、お買い求め頂きました。ところが、今は、着物への愛着をお持ちくださる方が増えて、普段に楽しんで着物をお召しくださる方がたくさんいらっしゃるのです。呉服屋としては有難い限りで、隔世の感がありますが、呉服屋としては願ったり叶ったりの時代の到来であるにも係わらず、着物が売れなくなったのです。着物は好きだ、欲しい、買いたい、だけど買えない、お金がないから、という方が増えたのです。 問題は、物が売れなくなったのは弊店だけではない、ということです。弊店が店舗を構える神戸元町商店街は、本年、生誕150年を迎えました。20年前、元町130年の時、私は企画委員長として記念事業を担当させて頂いたのですが、その折制作した商店街のマップに、弊店が所属する元町1番街商店街振興組合の店舗数は100店だったのが、20年後の本年、現在も営業を続けている店舗は100店のなかで35店なのです。残りの65店は店舗が入れ替わってしまった。営業を継続できなくなった理由は色々でしょうが、やはり一番の理由は営業不振、物が売れなくなったからでしょう。 おかげさまで全国津々浦々の商店街がシャッター街に成り果てる中で、神戸元町商店街は撤退した店舗の後に新規出店する店舗があって、見た目は変わらないのですが、ここ数年、極めて顕著な傾向は買取屋の出店が激増していることです。買取屋は一般のお客様から物を買い取ることを業務にしている商売です。神戸元町商店街に買取屋が激増しているということは、取りも直さず、来街のお客様は、商店街に物を買いに来るのではなく、物を売りに来る、ということなのです。どの商売にせよ、物が売れないのは当たり前。これが、日本の現実なのです。 |