私のオーディオ歴
事始
 私が「グレース」のフォノ・カートリッジを初めて使用したのは1970年頃でした。早稲田大学第一文学部に合格し、入学祝に頂いたお小遣いで生まれて初めてオーディオ・コンポーネントを購入したのです。東京秋葉原の「テレオン」というオーディオショップに飛び込みで入ったのですが、店員さんがとても親切で丁寧に相談にのってくださいました。私は、高校生の頃、オーディオ雑誌で写真を見て、その美しさに憧れていた「SME3009」というトーン・アームと、デザインが気に入っていた「LUX・SQ505」というプリメインアンプを、是非、使いたかったのですが、レコードを回転させるモーターに「TEAC・TN30MF」を購入すると、それだけで、ほぼ予算が尽きてしまいました。「テレオン」の店員さんは、フォノ・カートリッジに「SHURE・M44−7」を勧めてくださったのですが、それだけでは音が聴けないので、可哀相だ、と同情してくださったのか、オマケにヘッドフォンをプレゼントしてくださいました。
 翌年の春、春休みに神戸に帰省し、行きつけの三宮センター街「AOI」というレコード店に立ち寄って、色々、話をしていて、オーディオの話題になり、私がフォノ・カートリッジに「SHURE・M44−7」を使用していると聞いて「グレースのF8Lが素晴しいですよ。是非、お使いください」とアドバイスしてくださったのです。東京に戻って、早速、秋葉原の「テレオン」で「グレース・F8L」を購入しました。喜び勇んで下宿に持ち帰りトーン・アームに装着したのですが、一応、針圧とインサイドフォースキャンセラーは調整しました。その状態でレコードをかけると、それなりの音が鳴ったので、満足しました。
調整
 ところが、その後、随分経ってから、私が所属していた早稲田大学交響楽団のトレーナーの福富俊一さんが、私がオーディオを好きなことを耳にされて「三木さん、何を使ってるの?」と訊ねられたので、プリメインアンプは「LUX・SQ505」、スピーカーは「DYNACO・A25X」、トーン・アームが「SME3009」、カートリッジが「グレース・F8C」だとお答えすると、「アームのラテラル・バランス、ちゃんと合わせてる?」とおっしゃったのです。「ラテラル・バランス、って何ですか?」とお聞きすると、「アームの説明書を読まなくっちゃ」と言われたのです。
 福富俊一さんに「SME3009」のトーン・アームの調整の有無を聞かれて、下宿に帰って、早速、「SME3009」の取扱説明書を取り出して読み始めました。しかし「SME」はイギリスのメーカーなので、取扱説明書も英文です。英和辞典を引きながら読んでみると、針圧、インサイドフォースキャンセラーだけではなく、他にも色々、調整しなければならないところがありました。まず、トーン・アームの水平、ヘッド・シェルの垂直を保つこと。それから、フォノ・カートリッジの取り付けをオーバーハングの適正な位置に決めること。そして件(くだん)のラテラル・バランス。針圧とインサイドフォースキャンセラー以外は全く未調整だったので、取扱説明書に指示されたとおり調整しました。そして、鳴り出した音!いかに調整が大事であるか、レコード・プレーヤーの調整だけではなく、すべてのオーディオ機器の使いこなしが重要であるかを知りました。
 トーン・アームの調整で開眼した私のオーディオ。当時、四畳半の狭い下宿部屋でしたが、「DYNACO・A25X」のスピーカー、「LUX・SQ505」のプリメインアンプ、「SME3009」のトーン・アーム、そして「グレース・F8C」のフォノ・カートリッジが鳴り響かせる音に、惚れ惚れと聴き惚れました。「僕の生きがいだ」とさえ思えました。私のオーディオ、第一期黄金時代でした。