2025年2月20日


  地上戦と空中戦

 少々、物騒なタイトルですが、唯に店舗販売とインターネット販売の話です。私は、呉服屋になって53年になりますが、その間、三度、激変の時代を経験しました。バブル経済崩壊と阪神淡路大震災と、近々のコロナ感染症の猛威でした。それまでの商売のやり方では立ち行かなくなったのです。どうやって直面した困難を乗り越えるのか、思案に思案を重ねました。
 バブル経済の崩壊で売り上げが激減した時は、外商中心の商売が最早できなくなった。どうやってお客様との接点を作り出すのか。店舗をお客様との出会いの場にしよう、と店舗2階をギャラリーに活用することを始めました。阪神淡路大震災の惨状の後、被災地神戸でできなくなった商売を、全国で展開しようと各地に販売に出向きました。そしてインターネットで全国への情報発信を始めたのです。
 2020年の年初に始まったコロナ感染症の拡大は、いまだかつてない脅威でした。人と人が対面で接触することができなくなり、店舗での販売ができなくなったのです。どのような方法でお客様と触れ合う機会をつくるのか。インターネットの活用しか手段はない、とこれまで以上にインターネットの情報発信に注力し、さらにSNSを駆使しました。お客様も店舗で買い物ができなくなって、インターネットでお買い物をされるようになり、インターネットでの販売が増えたのです。
 しかしコロナ禍が終息に向かうと、インターネット販売が低調になったのです。やはり店舗で馴染(なじみ)の店員と対面しながら、商品を目で見て、手に触れて選ぶ方が楽しいのです。弊店でも、絶不調だった店舗販売が徐々に復調してきました。唯、コロナ禍以前と違うのは、インターネットでの情報発信を熱心に続けた結果、遠方からの来客が増えたのです。
 そうだ、店舗販売とインターネット販売を車の両輪のように、フル回転させるのだ。地上戦と空中戦を同時に戦うのだ。商売を戦争に例(たと)えるなんて不謹慎だ、とお叱りを受けそうですが、歳末商戦とごく当たり前に言うように、商売は戦いなのです。食うか食われるかの。

2025年2月10日


  問わず語り

 呉服屋になって20年になろうとする頃、お客様に私の気持ちをお伝えしたいという思いがつのって、「季節の便り」をお送りしようと考えました。1992年3月に最初の「春のたより」を書いた巻頭に「春はあけぼの、と清少納言は日本の四季の折々の美しさから書き起こしました。春夏秋冬、季節の移ろいは私達日本人の心をどんなに豊かにし楽しませているでしょう。ところで、とある店の入り口に「春夏冬中」と書いてありました。商い中(秋ない中)とのこと。思わず成る程、とうなずいてしまいました」という短文を載せました。以来、2021年6月まで、「季節の便り」の巻頭コラムを書き続け、「丸太やホームページ」に「問わず語り」と題して転載してきました。
 昨年の春、私個人のホームページを立ち上げようと思い立って「三久庵」と名付けて制作していただいたのですが、「問わず語り」は再録しないことにいたしました。ふとした思い付き、つぶやきなので改めて読んでいただく意味があるのか、と思ったのです。「三久庵」が完成し、公開した後、家内の友人から、「問わず語りを楽しく読んでいました」という言葉をいただき、拙文を読んでくださる方がいらっしゃったのだ、という驚きと喜びで、是非、再度「問わず語り」を掲載したホームページを作成しなければ、とリニューアルすることに決めたのです。
 この1月10日、完成した「三久庵」のリニューアルページを、原稿の脱字や誤字がないかをチェックするなかで、再掲載された「問わず語り」も読み返したのですが、1992年から2021年まで書き続けた「問わず語り」を読みながら、私自身、思いもかけないほど30年間の日々の出来事が、まるで昨日のことのようによみがえってきたのです。その時、何を思い、何を考えたのか、を。一生懸命だったのだ、あの頃も。「問わず語り」を再掲載して、本当に良かった。
 私の思いをしっかり受け止めて、分不相応に立派なホームページを制作してくださったKICのスタッフの皆さまに、心からの感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。