第二十九話
 その昔、日本人が「モノ」を持つことに熱心で、どのお宅の応接間にもピアノが置いてあったのは、置いてあるだけで豊かな気持ちになれたからです。

コナス
 ピアノは置いてあるだけでは意味がなくて、そのピアノで音楽を奏でてこそ意味がある。ピアノを置くことは、左程難しくありません。お金とスペースさえあれば出来る。しかしピアノを弾くことは、弾きこなすことは、時間と根気と才能がなければ出来ない。「モノ」を持つことは、誰でも出来る。しかし「モノ」を使うことは、誰でも出来るとは限りません。ある時期を境に、日本人が「モノ」を持つことよりも「モノ」を使うことに意味を見出そうとした。「モノ」を使うのに、より美しく、より楽しく使いたいと思い始めて、「使いこなす」ことが重要であることに気付いたのです。道具なら「使いこなす」、衣服なら「着こなす」、という風に。
 この「コナス」とは一体何でしょう。語源的には「粉(コ)に成(な)す」、すなわち「粉にする」だと思います。小麦を粉にして小麦粉にして、初めてパンを焼いたりケーキを焼いたりすることが出来るように、「コナス」ことによって美味しく調理出来るのです。ピアノであれ着物であれ、「使いこなす」「着こなす」ことによってピアノ本来の着物本来の価値が生まれる。さらに「使いこなす」「着こなす」ことによって、その使い手、着手の個性がより発揮されるのです。