第十九話
 泡と消えたバブル経済は、一体全体、何だったのか。何故起きたのか。その発生のメカニズムは、実に単純だと私は考えます。

三ダケ主義
 「一億総中流」を実現し、繁栄を極めた日本の社会を、滅茶苦茶にしたのがバブル経済の発生と崩壊でした。その傷跡は余りに深く、「失われた20年」どころか、未だに後遺症を脱しえない状況が続いています。第二次世界大戦の惨禍に比して優るとも劣らないバブル経済の惨状を、もっと深く反省しなければ、日本経済の真の再生は在り得ない、為し得ないと考えます。バブル経済とは、一体何であったのか。公的正義ではなく私的利益のみを追求した結果であった、と私は考えます。「今ダケ、金ダケ、自分ダケ」の「三ダケ主義」が日本を滅ぼしたのです。
 戦争によってすべてを失った日本人は、戦後ひたすらに「モノ」を持つことを追求しました。飽くなき所有欲が日本人の行動の原動力となって、奇跡的な経済復興を成し遂げたのです。しかしある時点まで日本人は、仏教的世界観と儒教的倫理観を行動の規範としていました。仏教の説く平等主義、儒教の説く修身主義が、我意を越えた公正さの理念を日本人に意識づけていたのです。しかし戦後の繁栄を謳歌する中で、次第に、「今ダケ、金ダケ、自分ダケ」の「三ダケ主義」がはびこっていったのです。商売人は、近江商人の「三方よし」を忘れてしまったのです。