第五話
 私は常々、相手の身になって考える、ということが大事ではないかと思うのですが、商売の極意もその辺にあるような気がします。

明日は我が身
 「他人の不幸は鴨の味」というコトバを知った時、人間の業の深さみたいなものを知らされてゾッとしました。我が身に振り返って、確かにそうだ。人間て、なんと無慈悲な、残酷な存在なのだろう。何故そうなのか。他人の痛みは、ちっとも痛くないからです。しかし人間が人間である所以は、他者への共感力を与えられていること。「他人の不幸」を自分自身の痛みとして実感することは出来ないけれど、「他人の不幸」を「自分の不幸」として想像する能力を持っている。「明日は我が身」と想像できるから、「他人の不幸」を他人事として無視したり、冷笑したり出来ないのです。他者への共感力とは、平たく言うと「思いやり」です。「思いやり」とは、「思いをやる」こと。自分の「思い」を他人に「やる」、相手の身になって考えることなのです。この相手の立場に立って考える、ということが、実は商売でとても大切なのです。
 商売で一番大事なことは、「売れる」ことです。では「売れる」とはどういうことか。お客様が「買う」ことです。では「買う」とはどういうことか。欲しい「モノ」を「買う」。欲しくない「モノ」は「買わない」。お客様が欲しい「モノ」がなくて「買わない」ことが「売れない」ことなのです。当たり前田のクラッカー。であるなら、「売れる」ためには、お客様が欲しい「モノ」を商品として取り揃えなければなりません。そのためには先ず、お客様が今何を欲しいと思っておられるのかを知らねばならない。そして欲しい「モノ」を商品として探さなければなりません。「売れる」ための第一歩は、お客様が何を求めておられるのかを、お客様の立場に立って考えることなのです。