はじめに
 私は大学でオーケストラに入団しチェロを始めました。それ以来、オーケストラや室内楽でチェロを弾き続けてきたのですが、呉服屋になってから長い間、お客様や取引先にはチェロを弾いていることを内緒にしていました。本業を疎(おろそ)かにして趣味に現(うつつ)を抜かす道楽者と思われることを危惧したからです。今から33年前、理由(わけ)あって店の2階のギャラリーでコンサートを開催し、お客様にもご案内したのですが、意外にも私がチェロを弾くことを好感してくださったのです。そのことに意を強くして、それから店内でコンサートを開催してチェロを弾き続けてきました。
 今、70代も半(なかば)になって、これまでの人生を振り返って、趣味でチェロを弾き続けてきたことが、どれほど私の人生を豊かにしてくれたかを改めて感じ入るのですが、それは私自身の私生活にとどまらず、「丸太や」の商売にも大いに貢献したのです。俗な言葉ですが「趣味と実益」が見事に合致した。しかし趣味は、唯に私個人に限ったことではなく、誰にとっても、すこぶる有益です。趣味の効用の最たるものは人間関係が広がることにあります。「人と人との出会い、心と心の通い合い」が生活を豊かにし社会を明るくするのです。