「破壊」から「創造」へ

 価格破壊なる現象が進行しています。商売人である私の眼には、価格破壊とは商品破壊に他ならず、商品破壊とは生産破壊に他ならず、生産破壊とは、生産に携わる人々の技術、経験、感性の破壊であり、それは、とりもなおさず、生産者の技術、経験、感性を支える文化の破壊に他なりません。価格破壊に端を発する文化破壊は、日本の社会に如何なる弊害をもたらすのでしょう。ここで、あらためて、文化とは何か、という問題が起きてきます。私は、文化は倫理だ、と思うのです。人間の内的規範としての倫理。文化破壊は、倫理を破壊する。産地偽装、不当表示、法令違反、等々のよって来る所以は、内的規範としての倫理の欠如です。
 では、なぜ文化が倫理たりうるのでしょう。狭義の意味での文化、すなわち、美術、工芸、文芸、音楽、等々を、創作する、鑑賞する上で重要なのは、精神を集中して、対象に密着し、把握し、理解することです。文化に係わることで、触れることで、人間は対象に共感する力を育むことができるのです。文化活動によって育まれた共感力が、自分以外の他者への配慮を醸成する。人間は社会的存在です。他者との調和の取れた関係を構築することが重要です。人間が社会的存在として、他者との協調関係を維持するために必要なのは、自己と他者との、相互理解、相互尊重の精神です。その精神こそ、内的規範としての倫理なのです。文化活動で育まれた共感力が、身勝手、思い上がり、独りよがり、を抑止し、他者と、共に歩む、共に生きることを可能にするのです。
 「まるたやフレンドリーコンサート」で演奏する音楽の大半は合奏です。2人、3人、4人、5人、が一緒に演奏します。合奏で絶対不可欠なのが、心を一つにすることです。複数の演奏者が心を一つにするためには、相互理解が欠かせません。相互に理解しあうには、他者への共感が何より大切なのです。他者とは、第一義的には演奏仲間であり、さらに、演奏曲目の作曲者であり、演奏を聴いてくださるお客様でもあります。「まるたやフレンドリーコンサート」が良い形で成立するためには、コンサートに係わるすべての人たちへの共感が重要なのです。