織 匠  道 長

 昨年の六月頃だったか、増田さんが「久雄さんと成美さんに是非見て欲しい帯があるんです」と数本の袋帯を持って来られました。「どうですか」とたずねられたので率直に「良いですね。いい風合いを出しておられる。デザインもさりげなくお洒落で」家内も気に入った様子でした。「実はこの帯は・・・」と話してくださったのは、増田さんの知人の妹婿さんが帯屋さんで、ところが問屋からの注文が激減してとても帯屋を続けていけない状態になり一旦は廃業されたのがやはりどうしても帯が織り続けたくて一年後に再開されたのです。しかし販路がなくて困っておられる、という相談でした。「久雄さん、成美さんに見てもらって反応が良くなかったら協力できないと思ったので。何か販売の機会を考えてあげてください」
 それから一ヶ月たって、その帯の製作者「織匠道長」の白数亮さんと岩永明さんが増田さんと連れ立ってお越しくださいました。いかにも織一筋に歩んでこられた、という風貌のおふたりでしたが新たに織り上がった帯を数点持参され、どういう糸をどういう組織で織り上げたかを熱っぽく語ってくださいました。和紙に色を染付けし引箔紙に貼付け横糸に織り込んだり従来は困難とされていた縦糸に紬糸を使ったり特に糸使いに工夫をされています。「どうして織匠道長と名づけられたのですか」とおたずねすると「私が平安時代、和歌を書いた色紙の道長の柄がとても好きでそれを是非、織で表現したかったのです」と岩永さんが答えられました。
 九月の初め、今度は私たちが京都市北区の工房をたずねました。北野天満宮の裏手を北に上がったところでした。更に新しい帯が制作されていましたが「以前、こんなものも織ったんです」と白数さんが見せてくださったのは「江戸風俗絵巻」を帯に織り上げたものでまさに織の極致、織でこれほどこまやかな表現が出来るのか、と圧倒されました。私が不躾に「織られた帯をお客様がお締めになっておられる着姿をご覧になられたことはありますか」とおたずねすると「ほとんどないです」と正直に答えられました。「大変僭越ですが是非、お客様がどんなふうに着物と帯を組み合わせてお召になっておられるかをご覧になると良いですよ。帯と着物が見事にコーディネートされた着姿を念頭においてお作りになることが大切だと思います。」
 ものづくりに携わっておられる方はどなたも皆なこの厳しい時勢のなか頭が下がるほど熱心に取り組んでおられます。その努力が空転しないで実を結ぶためには、着物を楽しんでお召になるお客様の遊び心を知り学ぶことが必要だと痛感しています。「織匠道長」のおふたりに是非弊店のお客様をお引き合わせし、さりげなくきものファッションを楽しまれておられるお客様のご意見をお聞きいただけたら、と考えました。そういう機会をお作りしようと一月十一日から十九日まで「織匠道長―棄てがたきもの」を開催いたします。十一日、十二日、十三日の三日間、弊店にお越しいただくことになりました。「織匠道長」さんの帯をご覧いただきたく、また「織匠道長」さんにはお客様の着物姿をご覧いただきたく、心よりご来場お待ち申し上げます。