第二十三話
 古来、わが国は、「豊葦原の瑞穂の国(とよあしはらのみずほのくに)」と称せられていました。葦が生い茂る湿地帯が豊かに広がり、稲穂が瑞々しく生育する国、という意味で、日本が水稲耕作に適した風土に恵まれていることを詩的に表現しています。

今年も豊年万作で
 人類にとって食糧の確保が最大の課題であることは、今日に到るまで変らない切迫した事実です。縄文時代、食糧の確保は狩猟採集によって担われていましたが、とりわけ漁撈が重要でした。縄文時代、日本全土の中で、東北地方が、より先進地域であったことが、縄文土器の進化の具合で判断されていますが、東北地方が当時にあって先進地域たりえた理由は、鱒、鮭の遡上にによって、魚穫が容易であったからです。しかし、弥生時代、大陸から水稲耕作がもたらされると食糧事情は一変し、水稲耕作に有利な地理的条件を持つ関西以西が社会進化を遂げ、大和地方、中国地方、九州地方に古代国家が誕生しました。
 水稲耕作は、その名の通り、稲の生育に水が不可欠です。当初、湿地帯だけが稲作に適していたのですが、水を管理する灌漑技術の進化によって、耕作可能な地域が拡大し、収穫量が増大するに伴って余剰生産物が生み出されるようになると、水利を統括する部族に余剰生産物が集中し、権力が発生し、国家という支配構造が確立したのです。大和地方、中国地方、九州地方に誕生した氏族国家は、国家間の権力闘争の結果、次第に大和地方に依拠する国家権力に収斂し、大和朝廷が誕生したのです。