「三久録」は、庵主、三木久雄の備忘録です。日々の暮らしのなかで感じたこと、考えたことを取り留めもなく書き綴りました。タイトルの「三久録」は「三・六・九」のモジリです。

2025年1月20日


  リアル・コミュニケーション

 私の、「無くて悪い七癖」の一つは、他人(ひと)と話をする時に、一方的に持論をまくし立てて、相手の話を聞かない。家内は、真逆で、他人(ひと)の話に親身に耳を傾けるので、相手の方も心を開いて熱心に話をされる。その様子を、端(はた)から見ていて、そうか、今はみんな、こういう風に、顔と顔を見合わせて、言葉を交わし合うことを求めておられるのだ。
 いつの頃からか、世の中、ドンドン、人と接することを避けるようになりました。買い物をするのも、ほとんど無人の売り場で、レジではセルフ決済。コーヒーを飲むのも、一人黙ってノートパソコンを見ながら。その傾向は、スマホの普及で一挙に加速した。ほとんど一日中、誰とも話をしないで済ませている。確かに、他人(ひと)と関わることは煩わしい。いらない気遣いをする。他人(ひと)と関わらなくても生きていけるなら、気楽でいい。だけど、心の中にポッカリ穴が空(あ)いている。スマホを見続けて、イイネを一杯押して、メールを送って、送られても、埋められない空虚さが。
 他の誰かと、顔を見合わせて、言葉を交わしたい。私の表情や、言葉の抑揚に滲(にじ)み出る喜びや、悲しみを受け止めて貰いたい。バーチャル・コミュニケーションでは決して満たされない思いを、リアル・コミュニケーションで満たしたい。今、そういう風に、気付いた人が沢山いらっしゃる。
 その昔、問屋の担当者から、「四国の呉服屋さんで、来店されたお客様に、一言も声をお掛けしないお店があるのですよ」と聞かされて、私は、究極の商売だ、と感じ入りました。口八丁手八丁で商品を売り込むのではなく、商品が語る言葉が、お客様の心打つまで黙ってみている、そんな商売を私も目指そうと。だから、来店されるお客様に、声をお掛けすることを控えていました。しかし、これからは、声をお掛けしよう。リアル・コミュニケーションを。

2025年1月10日


  「三久庵」ホームページ開設

 私個人のホームページを開設しようと思いついたのが何時(いつ)の頃だったかは定かではないのですが、何故(なぜ)ホームページを制作しようと考えたのかはハッキリとしています。私は、1973年に「丸太や」に入社して以来、50有余年、呉服業に携わってきましたが、今日に至るまで順調であったことは一度もありません。逆境の連続だった。戦時中、神戸大空襲で有馬道の店舗を焼失した後、戦後間無しに「丸太や」は神戸元町商店街で商売を再開しましたが、当時、元町、三宮界隈に20店舗近くあった呉服屋で、今も残っているのは弊店だけです。今日まで「丸太や」が呉服業を続けることが出来たことは、私の自負するところなのですが、その間、厳しい状況に陥ったことは度々でした。どうやって店を潰(つぶ)さずに商売を続けるのか、その都度、一生懸命に考えました。考えたことを書いて、書くことで方策を見つけようとしたのです。
 従前、「丸太や」ホームページ上で、私が考えてきたことを「呉服屋随筆集」として公表してまいりました。しかし、ここに来て、現下の商況の厳しさは、唯に弊店だけの問題ではなく、現代社会の問題だと気付いたのです。日本の社会を変えていかない限り、この苦境を乗り越える術(すべ)はない、と思い定めたのです。現代社会を考え、論じることは、呉服屋である「丸太や」の領域を超えている。それは私個人の問題として論じるべきだ、と考えて、私個人のホームページを作成し、そこで公表することにしたのです。本日、開設した「三久庵」ホームページをご覧いただければ、これにすぐる喜びはありません。